ピンチはチャンスか?−民報サロン寄稿文4/5
ピンチはチャンスか?
自分の実体験としても、確かにピンチをチャンスにできたことはあった。
例えば、新婚旅行で海外に行った時のこと。十数時間かかってようやく着いた目的地。フライトの疲れで頭も体もフラフラ。トイレを済ませ、送迎バスに乗り、空港から一路ホテルへ向かう。
やっと一息ついて、スマホをチェックしようとしたら……ない。肌身離さず持ち歩いていたはずのスマホが無い。必死に探した。カバンの中も机の中も探したけれど見つからない。送迎バスの中を探してもらってもないし、空港に確認してもない。これから一週間、言葉も通じない国で過ごすのに。まさにピンチだ。さらに、隣にいる妻は完全に引いている。これは大ピンチだ。ハネムーンがスマホ紛失で幕開けなんて、そりゃ誰でも引くだろう。
焦った僕は、これをどう乗り切ろうか頭をフル回転させて考えた。出た答えは至ってシンプルだった。
「よし、もう忘れよう!」
スマホに縛られることなく、目の前のことに集中して一生に一度の体験をすることができるチャンスじゃないか。それに、こんなことで幸せなはずの新婚旅行の時間を奪われるのが悔しかったのだ。自分のせいなんだけど。
でも、その瞬間から本当にどうでもよくなって、その後の全日程を満喫できたし、案外スマホがなくても不便はなかった。
それにその出来事以来、妻には「意外とポジティブな人」という枠組みに入れてもらえた。 これはピンチをチャンスに変え、そのチャンスをものにできたと言える。物は言いようだ。
この他にも特に思い出深い出来事が、十年ほど前、仕事でとある学校の修学旅行に、撮影のために同行した時のこと。この手の仕事は何度か経験して慣れてきた頃だった。
旅行先は沖縄。数日間の行程を終え、あとは飛行機に乗って帰るだけ。
空港に着いてから搭乗まで時間があったので、カフェでコーヒーを飲みながら待つことにした。とても暑い日だったので、調子に乗ってもう一杯飲んだ。
ようやく搭乗の時間になり、生徒たちや先生方と並び飛行機の座席に座る。出発の時間に近づくと、飛行機が動き始めた。だが、なかなか速度も上がらず離陸しない。どうやら何らかの調整があるらしい。少し時間が経つと、ふとトイレに行きたいような気がしてきた。だが、ベルト着用サインも点灯しているし、気にしないことにした。さらに時間が進む。機体は進まない。コーヒーを二杯飲んだことを思い出す。「トイレに行きたい」は確信に変わった。ベルト着用サインは今も点灯している。ピンチの始まりだ。
流石にまずいと思い、コールボタンを押す。来てくれたCAさんに事情を話すと、「只今離陸に向けて準備中なのでお立ちいただけません。どうしてもの場合はこちらの紙袋をご利用いただくしか……」と申し訳なさそうに言われた。「いやいやいや、無理ですよぉ!」と心底思ったが、駄々をこねるわけにもいかないので大人しい振りをして離陸を待った。
この時はさすがに「よし、もう忘れよう!」とはできずに、もはや時間の問題だった。
そして予定より四十分ほど遅れてついにその時が来た。飛行機はスピードに乗り、機体前方を持ち上げて離陸態勢に入った。さらに速度が上がる。体にはGがかかる。
もう、限界だった。
その後のことはあえてここには書かないが、このピンチは最後までピンチのままだった。(最悪のシナリオは免れた。)
あれをチャンスにする術はあったのかなあ。
福島民報社 2026年3月11日付け 民報サロンに掲載 寄稿原文
※福島民報社にweb掲載許可の確認済み













































